マーケティングや事業戦略を学んでいると、時々目にするSTP分析。
戦略策定のフレームワークは便利なものが様々ありますが、だからこそ意味や使い方を混乱してしまうこともあるのではないでしょうか。
そこで今日は、STP分析についてわかりやすくお話します。
<プロフィール>
RyS ("リス"と読みます)
〇ブランドマネージャー1級資格取得
〇一般財団法人ブランドマネージャー認定協会公式アンバサダー
〇toB,toC問わず、中小企業を中心にブランディング支援活動中
STP分析とは?
STP分析とは、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング( Positioning)というプロセスの頭文字をとって名付けられた、事業戦略を考えるうえで非常に便利な分析手法です。
具体的には、まずは市場を細分化(セグメンテーション)し、そのなかで狙いたい市場を選定し(ターゲティング)、最後に競合との位置取りを考える(ポジショニング)、順番含めてこの3つの流れをSTP分析といいます。
ブランディングのステップでも、STP分析はペルソナ作成のために非常に重要な役割を持ちます。
詳しくはこれから解説していきますので、いまは漠然と流れをイメージできれば大丈夫です。
STP分析の重要性
STP分析は、事業戦略や市場を考えるうえで、非常に重要な役割を持ちます。
市場の”輪郭”を具体化できる
市場という言葉は、良くも悪くも漠然とした意味を持ちます。その漠然とした状態で事業戦略やターゲットを検討しようとすると、やはりそれらにも漠然さが現れてしまい、場合によっては指針がブレてしまいます。
セグメンテーションを行うことで、市場を具体的な要素に分解できるため、以降の作業も自然と具体化させることが可能になります。
思いつきではないペルソナが作成できる
セグメンテーションとターゲティングを行うことで、思いつきではないペルソナを作成することができます。
“思いつきではない”ってどういうこと?
なんの準備もせずにいきなりペルソナを作成しようとすると、自社にとって都合の良いペルソナを作り上げてしまうことがあります。例えば、ペルソナストーリーを考える過程で、「〇〇について整理できてなかったけど、この人には△△の悩みを持っていた過去があって、、」といった具合です。
このように思いつきでペルソナを作ってしまうと、前工程で整理している環境分析やその後のマーケティング戦略に矛盾や違和感を生んでしまいます。
そこで、後ほどご紹介する方法でセグメンテーションやターゲティングを行えばペルソナ作成の準備ができ、思いつきでもなく矛盾や違和感のないペルソナを作成することができます。
競合との差別化を明確化できる
ポジショニングではポジショニングマップというものを作成します。ポジショニングマップは、競合との特徴の違いを簡単に見える化するうえで非常に有効です。
縦軸と横軸に競合と差のある特徴を置くことで、「○○×△△といえば自社」が明確化でき、消費者はもちろん、チームメンバーの理解を統一することができます。
一般的に文字よりイラストを見た方が理解を早められることが多く、またポジショニングマップを複数用意することで差別化をより強固なものにすることができます。
STP分析のやり方
STP分析は、S(セグメンテーション)→T(ターゲティング)→P(ポジショニングマップ)の順番で行っていきます。
S:セグメンテーション
まずはSTP分析のS、セグメンテーション(市場の細分化)を行います。
市場の細分化?
と思われた方は、市場を「顧客属性」と捉えると理解しやすくなります。
実際にやってみましょう。例えばこのロジブラというサイトは、下記のように市場(顧客属性)を細分化しました。
▼基本セグメント
- 年齢・・・0~、 10~、 20~、 30~、 40~、 50~、 60~
- 性別・・・男性、 女性、 その他
- 性格・・・明るい、 やや明るい、 普通、 やや落ち着いている、 落ち着いている、その他
- 考え方・・・論理的、 やや論理的、 やや感情的、 感情的、 その他
- 購買決定者・・・本人、 上司、 部下、 その他
- 購買動機・・・入手しやすさ、 提供の早さ、 価格、 サポートの良さ、 費用対効果、 口コミ、 品質、 特典、 実績、 新登場、 話題、 その他
- 情報収集方法・・・SNS、 ネット、 雑誌、 展示会、 口コミ、 TV、 ラジオ、 知人との会話、その他
▼固有セグメント
- 役職・・・社長、 部長、 課長、 リーダー、 なし、 その他
- 部署・・・経営、 マーケティング、 企画、 営業、 開発、 事務、 商品、 事業推進、 その他
- ミッション・・・売上拡大、 認知拡大、 新規獲得、 リピート獲得、 利益拡大、 その他
- 悩み・・・商品の強み理解がバラバラ、 工数、 ミッションの達成、 スキル、 人間関係、 その他
- 学習意欲・・・高い、 やや高い、 普通、 やや低い、 低い
- ブランディングへの印象(+)・・・かっこいい、 デザイン、 統一感、 その他
- ブランディングへの印象(-)・・・抽象的、 難しい、 属人的、 効果が不明、 その他
基本セグメントと固有セグメントって?
基本セグメントは多くの事業に共通する細分化すべきセグメントテーマのことで、固有セグメントは自分の事業に関連しそうな項目をピックアップしたセグメントテーマのことです。
とはいえ、あまり基本セグメントと固有セグメントの括りにはとらわれず、網羅的にセグメントテーマが出せているかを重要視するようにしましょう。
BtoB事業を営んでいる方は、人だけでなく企業軸でもセグメンテーションを行います。
T:ターゲティング
次に、Tのターゲティングを行います。ターゲティングでは、セグメンテーションで細分化した要素のどこを狙うかを選定していきます。
ロジブラの例では、下記のように選定しました。
▼基本セグメントのターゲティング
- 年齢・・・30~、 40~
- 性別・・・男性
- 性格・・・明るい、 やや明るい
- 考え方・・・論理的
- 購買決定者・・・上司
- 購買動機・・・費用対効果、 品質
- 情報収集方法・・・SNS、 ネット、 展示会
▼固有セグメントのターゲティング
- 役職・・・課長、 リーダー
- 部署・・・事業推進
- ミッション・・・売上拡大
- 悩み・・・工数、 ミッションの達成
- 学習意欲・・・高い、 やや高い
- ブランディングへの印象(+)・・・かっこいい、 デザイン、 統一感
- ブランディングへの印象(-)・・・抽象的、 効果が不明
私は、セグメンテーションからターゲティングまでの過程を“ペルソナを作る準備”と考えています。
たしかに、ペルソナが作れそう!
ここまでの工程を行うことで、どのようなターゲットを狙うかはもちろん、何を狙わないかを見える化することができます。
ターゲットに”あなたに向けたサービス”であることや”何かに特化した商品”と印象強く覚えてもらうには、逆になにに向いていないのかを明確にすることも重要です。そのため、ターゲティングで選定する数は各項目で1,2個、多くても3個に収まるようにしましょう。
P:ポジショニング
最後に、Pのポジショニングです。このフェーズでは、ポジショニングマップを作成することで、競合との差別化を明確化します。
ロジブラでは、下記のように作成しました。
今回はご参考用に競合名を伏せていますが、実際は実名でマップを作成します。
このマップでは、下記のように各々の特徴を表しています。
▼機能的価値
- 自社(ロジブラ)・・・ロジカルにわかりやすく説明するブランディング代行
- 競合A・・・抽象的でデザイン特化なブランディング代行
- 競合B・・・ロジカルにわかりやすく説明するブランディングスクール
▼情緒的価値
- 自社(ロジブラ)・・・納得感があり、ラクにブランディングができる
- 競合A・・・感動的で、ラクにブランディングができる
- 競合B・・・納得感があり、スキルアップ感(充実感)が得られる
機能的価値と情緒的価値の2つに分かれているのはなぜ?
ポジショニングマップは1つだけでも効果を発揮しますが、様々なテーマで複数作成した方が、より強力な差別化が可能になります。
機能的価値や情緒的価値の他にも、顧客属性や購買状況、消費状況など、様々な観点がありますので、余力のある方はぜひ複数作ってみてください。
STP分析を使うタイミング
次に、STP分析を使うタイミングについてお話します。下図をご覧ください。
上記はブランディングのステップを簡略化したもので、砂時計で上から砂が降っていくようなイメージをして頂ければと思います。
本題のSTP分析については、比較的序盤の“環境分析の後、ペルソナ作成の前”に行います。
STP分析の役割が「市場の輪郭の明確化」「ペルソナ作成の準備」を兼ねていたことを思い返すと、必然のタイミングですね。
ただし厳密にいうと、Pのポジショニングだけはペルソナ作成の後に行います。
どうして?
身も蓋もないことを言えばブランドマネージャー認定協会がそのように定めているから、というのが回答なのですが、私としては、「ペルソナ作成にポジショニングマップは必要ないこと」「ペルソナを定めた後に行うことで、作成できるポジショニングマップの切り口が増えること」この2点だと考えています。
特に後者は、先ほどお話したように「顧客属性」というテーマでもポジショニングマップを作成できますから、より強力な差別化を行う上ではポジショニングを後に行うことには大きな意味があると思っています。
少し細かい話をしてしまいましたが、難しく感じた方は先ほどの“環境分析の後、ペルソナ作成の前”と覚えて頂ければ大丈夫です。
なお、ブランディングの全体の流れについて詳しく知りたいという方は、下記記事をご覧ください。
STP分析のポイント
STP分析を行ううえで、ポイントをいくつかご紹介します。
各工程を同時に行わない
主にセグメンテーションとターゲティングの作業時について、セグメンテーションで項目出し(年齢や性別など)をしていると、同時にどの要素を狙うか、選びたくなってしまうことがあります。
ただこれは効率が悪く、かつ先入観がたくさん混ざったペルソナを作る原因になりますのでやめましょう。
各工程ごとに集中して作業することで、網羅性と客観性の高いアウトプットをしやすくなります。
ターゲティングの選定は思い切る
先ほども少しお話しましたが、ターゲティングの選定数は多くなり過ぎないように注意しましょう。
どうしても難しいという方は、「誰が自社商品(サービス)を利用できるか」ではなく、「自社商品(サービス)を象徴する人はどのような人か」と、考え方の変換をしてみてください。
そうすることで、自然と思い切りのよいターゲティングができるようになります。また、
ターゲティングで選定しなかった顧客がこなくなりそう、、
と心配される方もいらっしゃるかと思いますが、その点も心配ご不要です。その理由は、結局はターゲティング外の顧客も一定数は入ってくるためです。
「この商品は様々な機能を持っているので、みなさんに使っていただけます!」より、
「この商品は〇〇の機能に特化しているので、△△の悩みを持つあなたにぴったりな商品です!」と言われた方が、多少△△の悩みが弱くても買ってみようかな?という気にならないでしょうか。
ターゲティングは、この前者を後者にする作業ですので、思い切って選定して頂ければと思います。
ポジショニングマップの競合は3C分析の競合と揃える
ポジショニングマップでは競合が登場しますが、その競合を3C分析などに登場する競合と揃えるようにしましょう。
私が過去にあったのは、とあるクライアントさまよりブランディングの相談を受けていると、環境分析やSTP分析、ペルソナ作成などの”点”ではしっかり検討されていたものの、”線”でつなげて考えると揃っていないことがありました。
具体的には、「3C分析で調査した競合」「ペルソナが使っている他社商品」「ポジショニングマップで差別化を図った競合」がそれぞれ異なっていた、といった具合です。
これではせっかく市場調査で得たデータが活かしきれなくなってしまいますので、3C分析で登場させた競合を、ポジショニングマップなど以降の工程でも一貫させて比較するようにしましょう。
意外と競合の統一ができていないことは多いので、ポジショニングマップを作成するときは意識しておいてください。
STP分析の事例
下記2つの事例で、STP分析をポイントの1つとして簡単に解説しています。実際の活用事例を見てみたい方は、ぜひご覧ください。
まとめ
いかがでしたか?
改めてになりますが、STP分析は市場の輪郭を明確化し、ペルソナ作成にも役立ち、競合との差別化を可視化する非常に便利な分析手法です。
セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングは、それぞれ理解するにはそこまで難しいものではありませんが、実際の活用に至っては非常に奥が深いものです。
使いこなせるようになりたいという方は、自社の事業で様々なパターンを想定して、繰り返し練習してみてください。