第2回目のブランディング事例は、「工場夜景」についてです。
工場は、一時は公害の象徴と言われ、印象は最悪でした。しかし、いまや工場夜景として夜の人気の観光スポットになるまでにイメージ回復をしています。
いったい、なにがあったのでしょうか?
ブランディング観点でひも解いてみましたので、ブランディングで商品やサービスの印象を変えたいと思っている方、ぜひご覧ください。
<プロフィール>
RyS ("リス"と読みます)
〇ブランドマネージャー1級資格取得
〇一般財団法人ブランドマネージャー認定協会公式アンバサダー
〇toB,toC問わず、中小企業を中心にブランディング支援活動中
工場夜景の誕生秘話
川崎市の工業地帯にて
ブームの先駆けとなったのは、神奈川県川崎市の湾岸部にある工業地帯。
工場はもともと、戦前戦後には国が成長するために大きく貢献する存在として、素晴らしいものと思われていました。
公害の象徴
しかし、工場からの水質汚染や光化学スモッグなどの公害の発生により、人的被害が確認されるようになりました。
すると、工場への印象は一転して『公害の象徴』とまで言われるようになりました。
水俣病、新潟水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病が四大公害病として大きく問題になりました。
公害対策による印象回復
国は事態を重く受け止め、昭和42年に公害対策基本法を制定、昭和46年には環境庁が設置するなどして、公害対策を施しました。
公害対策に終わりはありませんが、そのような取り組みの甲斐もあり、徐々に”工場=公害の象徴”という印象は薄れていきました。
機能美として話題に
また近年、公害対策とは全く別のところで、工場の印象が変わる出来事が起きていました。
それは、川崎市の工業地帯を走るJR鶴見線の景観や付近を走るレトロな電車が、機能美として話題になっていたことです。
戦前から使われていた車両が、大きな音を立てながら海と工場の光を横目にひた走る、これが一部マニアの間で評判になっていたのです。その後、
他にももっと幻想的な雰囲気の場所があるのでは!?
と、全国の工業地帯に注目が集まるようになりました。
スマホやカメラ、SNSの普及も、この勢いを後押しする形になったようです。
予約の取れない観光コースへ
工場夜景が雑誌でも取り上げられるようになると、2008年、川崎市環境協会は「ドラマチック工場夜景ツアー」を実施しました。その反響は驚くべきもので、2010年には定期運行するまでに至りました。
そしていまでは人気の観光スポットとして、川崎市だけでなく全国13都市が「全国工場夜景都市協議会」に加盟し、活動しているそうです。
ブランディング観点で解説
それではこのお話を、ブランディングのステップに沿って解説してみたいと思います。
「工場夜景のブランディングを行うなら」という観点でポイントを考えてみました。
ブランディングのステップについて知りたい方は、先に下記記事をご覧ください。
ポイント①|アンゾフの成長マトリクス
アンゾフの成長マトリクスとは、市場戦略を製品と市場の観点で考えるフレームワークです。
今回の場合、工場という簡単には変えられない「既存製品」を、本来の役割とは異なる「新規市場」に狙いを定めることで活路を見出しました。
ポイント②|環境分析(クロスSWOT分析)
クロスSWOT分析は、自社にとって外部&内部の環境を、プラスとマイナスの要因に整理するためのフレームワークです。
工場夜景は、「外観が幻想的」という強みと、世間の「非日常体験をしたい」という機会がうまく重なって、良い市場機会となりました。
ポイント③|ブランド体験
ブランド体験は、お客様に商品やサービスをどのように『体験』して頂くかを示した全体の流れです。
いわば、マーケティング戦略のことです。
【SEO対策】
「工場夜景」で上位表示を目指し、HPにアクセスする。
【HP】
訪れたユーザーが行きたいと思うような、非日常が体験できそうな写真を多く掲載。
【SNS(instagram)】
「工場夜景コンテスト」を開催し、幻想的な工場夜景に興味を持つ人を増やす。
【観光サイト】
プランを複数用意し、様々な側面で楽しめることをアピール。ランキング形式でも紹介し、予約を促す。
【観光】
工場夜景(非日常体験)が最も楽しめる時間、位置、方法で観光案内を実施。
クルージングやJAZZ演奏など、付加価値も楽しめるプランを用意する。
【SNS(instagram)※仮説】
「工場夜景コンテスト」や通常投稿を促し、思い出の記録と同時に別エリアやプランへにも興味を持って頂く。
まとめ
いかがでしたか?
今回のお話は誰かが意図的に印象を変えていったものではないため、ブランディングとは少々言いづらいところもありますが、
ブランディングは”意図的”であることがとても重要です。
とはいえ、強みを活かせばポジティブな印象に変えられるというのは、ブランドのマイナスイメージを改善したい場合に非常に参考になるのではないでしょうか。