第1回目の事例は、石川県にあるアレルギー対応パン屋「tonton」さん(以下敬称略)です。
地元でこじんまりとしたパン屋になる予定だったtontonが、いかにして全国から注文が殺到するパン屋になったのか、ブランディング観点でひも解いてみました。
ブランディングに興味のある小さな飲食店運営をされている方、ぜひご覧ください。
<プロフィール>
RyS ("リス"と読みます)
〇ブランドマネージャー1級資格取得
〇一般財団法人ブランドマネージャー認定協会公式アンバサダー
〇toB,toC問わず、中小企業を中心にブランディング支援活動中
アレルギー対応パン屋”tonton”の誕生秘話
パン屋『tonton』の開業
サラリーマンだった井藤さんは、いつかご夫婦でこじんまりとしたパン屋を開くことが夢でした。
井藤さんはある日、地元のパン屋が撤退するため、代わりに入れるお店を募集している、という情報を耳に。
スーパーの中ということで集客面では困りづらい好立地でもあったため、井藤さんは資金をかき集めて、念願のパン屋を開業することにしました。
全く売れない日々
しかし、以前その場所に入っていたお店は安さで有名だったパン屋さん。
個人経営の店舗として常識的な価格で勝負しても、2倍以上の価格差が出てしまっていたため、立地とおいしさで勝負しても全く見向きもされませんでした。
アレルギー対応パンとの出会い
そんなある日、ちなみちゃんという小学5年生のお子様を持つお母様から、
卵と乳製品を使っていないパンを作ってもらえませんか?
というご要望が。ちなみちゃんが卵と乳製品のアレルギー持ちで、一般的なパンが食べられなかったそうなのです。
そこで、井藤さんは手探りながらも卵乳不使用のコッペパンを作り、恐る恐るちなみちゃんに食べてもらったところ、
フワフワでおいしい!
と満面の笑顔!
井藤さんはこの出来事をきっかけに、tontonをちなみちゃんのためのパン屋にしようと決意したそうです。
アレルギー対応パンを全国へ
その後、井藤さんはちなみちゃんの喜ぶ顔見たさに食べてみたいパンを聞き、クロワッサンやメロンパンなどを作り始めることに。
そんな日々が続いていると、噂を聞きつけた同じアレルギーの悩みをもつ全国各地のお客様から、気づけばたくさんのお問合せが届くようになっていました。
いまでは卵や乳製品などのアレルギー成分を一切持ち込まないパン工場を作り、アレルギーを持つ子どもが安心して食べられる「笑顔になれるパン」を製造しているそうです。
公式通販サイトには、子供たちが笑顔でパンを食べている写真がたくさん並んでいました。
ブランディング観点で解説
tontonのエピソード、いかがでしたか?
このようなストーリーを聞くと、アレルギー持ちでなくても一度は食べてみたくなりますね。
それではこのお話を、ブランディングのステップに沿ってポイントを解説してみたいと思います。ブランディングのステップについて知りたい方は、先に下記記事をご覧ください。
ポイント①|環境分析(3C分析)
3C分析とは、「Company(自社)」、「Customer(顧客)」、「Competitor(競合他社)」の3つの要素を分析する手法です。
今回、「アレルギー持ちでも食べられるパン」という、実際のお客様の強いニーズがありました。
tontonは個人店で値下げにも限界があったため、「おいしいパン」という競合と同じ土俵で戦い苦戦していましたが、個人店の強みである柔軟な対応力を活かし、アレルギー対応パンの開発をすることができました。
結果的に、その取り組みが全く売れない日々という苦境を乗り越える、大きな市場機会を得ることになりました。
ポイント②|STP分析
STP分析は、「セグメンテーション(Segmentation)」「ターゲティング(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」の頭文字をとって名付けられた分析手法で、市場を細分化し、その中でどの市場を狙うか、競合とどのような位置取りを図るかを整理するフレームワークです。
tontonはもともと”地元のおいしいパン屋さん”として事業展開していましたが、市場を変えたことで、競合との差別化や商圏拡大につなげることができました。
今回は強みを「おいしい」にとどめましたが、実際は「焼き立て」「フワフワ」など具体化すると、競合とのより明確な差別化が可能になります。
ポイント③|ペルソナ
ペルソナは、商品やサービスが誰のために存在するのかを示す、具体的な人物像のことです。
“ちなみちゃん”という明確なペルソナがいたことで、事業の方向性(パン作り)に一貫性が出ました。
ポイント④|ブランド体験
ブランド体験は、お客様に商品やサービスをどのように『体験』して頂くかを示した全体の流れです。
【SEM対策】
「アレルギー対応 パン」で検索すると、リスティング広告の出稿だけでなく、SEOでも1位を獲得していました。消費者がアレルギー対応パンという存在をどこかで知り、検索した際は、ほぼ確実にtontonが目に入る状態になっています。
【HP 】
tontonのHPにアクセスすると非常に印象的なのが、たくさんの子供たちの笑顔の写真。アレルギー対応パンの購入を考える親御さんが一番心配しているのは、おそらく「本当に子どもに食べさせても大丈夫なのか」という不安なのではないでしょうか。そう考えると、たくさんの子供がおいしそうにパンを食べている写真というのは何よりの安心材料になると考えられます。
また、tontonを初めて知った方向けに、tontonというお店がどのような背景のもと運営しているのかを紹介するページが用意されており、そこでアレルギー対応パンに対する想いについて説得力と信頼感が醸成されるようになっています。
【HP】
初めてのお客様向けに、初回限定で送料無料のお試しセットを用意。tontonの代表的で人気のパンが味わえるようになっています。
【実食】
実際にお客様にパンを食べて頂きます。
公式HPにご案内のチラシが多数用意されていたため、商品発送時にチラシが同封されているかもしれません。
【HP】
パンの種類を充実させたり、人気ランキングを掲載することで、次に食べたいパンを選ぶ楽しみを感じて頂きます。
まとめ
tontonの事例、いかがでしたか?
余談ですが、tontonがアレルギー対応パンになるきっかけでもあったペルソナのちなみちゃんは、地元の高校で一番の進学校に通っていましたが、tontonへの想いが強く、大学へ進学せずにtontonへ就職したそうです。
この記事では特筆しませんでしたが、ブランディングは採用活動にも効果があります。
ぜひその観点でも、ブランディングの実施について検討してみてください。
気になることや質問等ございましたら、お気軽にお問合せください。