第4回目のブランディング事例は、キューピー「深煎りごまドレッシング」です。
スーパーに行けば必ず見かけるといっても過言ではない、キューピー深煎りごまドレッシング。
一時は市場からの評価順位を落としてしまったキューピーが、得意の研究開発力を活かしてこのドレッシングをつくり、いまではドレッシング界不動の1位の商品として君臨しています。
この捲土重来のエピソードをブランディング観点で解説してみましたので、ぜひご覧ください。
<プロフィール>
RyS ("リス"と読みます)
〇ブランドマネージャー1級資格取得
〇一般財団法人ブランドマネージャー認定協会公式アンバサダー
〇toB,toC問わず、中小企業を中心にブランディング支援活動中
深煎りごまドレッシングの誕生秘話
ドレッシング王座の陥落
1988年頃、キューピーは国内ドレッシングシェア単品ランキングで1位から5位までを独占していました。
しかしその後、ドレッシング業界の競争が激しくなり、TOP5からキューピーの商品は消えてしまう事態に。
キューピーでは、上述のランキングを「お客さまからの支持」と捉えていたため、ナンバーワン奪回が大きな目標となっていました。
強みを磨く
そして、ナンバーワン奪回に向けてキューピーが出した答えは、もともと得意としていた「ごま」。
すでにごまを使ったドレッシングは数種類あったものの、乳化タイプにするとごまの香りが出なかったため、研究開発部門ではそこに活路を見出そうと日々知恵を絞りました。
そんなある日、コーヒー好きの研究開発担当者が、
コーヒーはなぜミルクに負けないんだろう?
と疑問に思い、調べてみることに。すると、”深煎り””高い焙煎鮮度””挽きたて”が鍵を握っていることが明らかになりました。
そして、これはごまドレッシングにも応用できると考え、歩いて徒歩3分の距離にある工場でその話をしたところ、
面白そう、やってみたい!
とうれしい反応が。それからは試行錯誤を繰り返し、ついには課題としていたごまの香りが引き立つ独自の製法を完成させることに成功しました。
商品化とヒットへの確信
その後、商品企画の担当者がそのごまドレッシングの試作品を食べてみたところ、おいしさの衝撃とともにヒットを確信したそうで、当日の新商品開発会議ですぐに発表されました。
さらにそのおいしさは社内の空気を一変させ、本部から最前線の営業までが一体となり、商品化までの工数が通常より大きく短縮されるほどの気合いの入りようでした。
商品化においては、先に発売されたのが業務用の「焙煎胡麻ドレッシング」。一方、市販化では商品名を変え「深煎りごまドレッシング」と名付けられました。その理由は、
“深煎り”だからこそおいしいというニュアンスと、焙煎の度合いを直感的に伝えたい!
という想いがあったからだそうです。
ランキング1位への返り咲き
2000年、深煎りごまドレッシングは満を持して市販化を開始。本商品のヒットの予感はあたり、2年後の2002年、当初の目標だった国内ドレッシング単品ランキングで1位に返り咲くことができました。
ただそれだけでなく、20年連続でドレッシング国内シェア1位を獲得し、2022年は年間約7,600万本が売れるという、日本で最も売れているドレッシングとなりました。
レッドオーシャンのなかで20年連続1位はとてつもない偉業ですね。
ブランディング観点で解説
それではこのお話を、ブランディングのステップに沿って解説してみたいと思います。
「深煎りごまドレッシングのブランディングを行うなら」という観点でポイントを考えてみました。
ブランディングは、下図のように目的から目標設定まで上から順に行っていきます。
今回の事例のポイントは、
- ポイント①|目的(アンゾフの成長マトリクス)
- ポイント②|環境分析(クロスSWOT分析)
- ポイント③|ブランド要素
です。
なお、ブランディングのステップについて詳しく知りたい方は、先に下記記事をご覧ください。
ポイント①|目的(アンゾフの成長マトリクス)
アンゾフの成長マトリクスを使って、市場戦略を考えてみます。
研究開発力をもっていたキューピーは、強みが活かせそうな市場戦略(新商品開発戦略)で、ランキング1位の奪還を目指しました。
ポイント②|環境分析(クロスSWOT分析)
クロスSWOT分析は、内部環境(強みと弱み)と外部環境(機会と脅威)を縦横に並べて掛け合わせた、戦略策定に有効なフレームワークのことです。
「ごまの知見が豊富」「研究所と工場が徒歩3分の距離で新しい製法を試しやすかった」「サプライヤーが身近」など、強みをフル活用して活路を見出しました。
ポイント③|ブランド要素
ブランド要素は、商品名やロゴ、タグライン(キャッチコピー)、色など、ブランドを表現する”最小単位”となる要素のことです。前工程で定めるブランドアイデンティティに一貫性を持たせながら、各要素を決めていきます。
今回の深煎りごまドレッシングのお話では、業務用商品名では「焙煎」とごまの”状態”を表し、市販用商品名では「深煎り」という”直感的においしさが伝わる”表現にするなど、受け手の印象にも配慮しました。
まとめ
キューピー深煎りごまドレッシングの事例、いかがでしたか?
このようなエピソードを知ると、深煎りごまドレッシングを使った料理が食べたくなりますね。
研究開発力自体はブランディングでは強化できませんが、いまある強みをどのように活かすか、どう一貫性を持たせて商品化させるかを整理できるのがブランディングを行うメリットです。
事業のシェア拡大に悩んでいる方、ぜひ参考にしてみてください。